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東京高等裁判所 平成6年(ネ)3499号 判決 1996年3月18日

(ネ)第三三二一号控訴人

中野建材興業株式会社

右代表者代表取締役

中野敏雄

同号控訴人

中野敏雄

右両名訴訟代理人弁護士

永山忠彦

鈴木啓文

(ネ)第三四九九号控訴人

木嶋茂德

右訴訟代理人弁護士

大北晶敏

被控訴人

水資源開発公団

右代表者総裁

近藤徹

右訴訟代理人弁護士

高田敏明

主文

一  本件控訴を棄却する。

ただし、原判決別紙第二物件目録を本判決別紙「第二物件目録」のとおり、原判決添付図面(一)、(五)及び(七)を本判決別紙「添付図面更正書」のとおりそれぞれ更正する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  本件事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第二項記載のとおりであるから、これを引用する(なお、「被告茂徳」とあるのをいずれも「控訴人茂德」に読み替える。)。

1  原判決三枚目表一行目の「産業廃棄物等」を「廃棄物及び土砂等」に、同二行目の「産業廃棄物」を「廃棄物」に、同裏一〇行目の「前記の原告土地を所有している」を「昭和四六年に木嶋義夫から前記の被控訴人土地を買い受けた」に、同一一行目の「本件山林」を「平成元年八月二三日分筆前の長生郡長柄町六地蔵字勝古沢二二二番一(地積一四二〇七平方メートル)」に、同四枚目表一行目及び同二行目の「本件山林」を「右山林」にそれぞれ改め、同三行目の「分筆し」の次に「(分筆後の二二二番一と同番八が本件山林に当たる。)」を加える。

2  同裏一行目冒頭から同三行目の「当たる。」までを「本件山林と被控訴人土地とは隣接し、概ね本件山林の南から北にかけて下り急斜面をなし、ほぼ北側に位置する被控訴人土地は山間の谷底部分に当たる(原判決別紙図面(一))。そして、」に改め、同五行目の「(別紙図面(一))」を削除し、同行の「本件山林に」から同五枚目表三行目の「箇所がある」までを「本件山林は、廃棄物等が大量に搬入されるに連れてその地形が改まってきており、以前は、本件山林北側の進入路に接する部分が最も高く、上端部の平坦地は少なかったが、次第に進入路周辺が埋め立てられ、上端部に平坦地が若干造成された。そして、次第に下方の被控訴人土地に続く斜面が急勾配になり、現状において勾配が約四五度に達する箇所もある。本件山林と被控訴人土地との境界はもともと標高約八五メートル付近にあったところ、標高約一〇八メートルにも及ぶ箇所も生じ、境界付近において深さおよそ一〇メートル前後、ところにより16.5メートルも廃棄物等が堆積している。廃棄物等の堆積している範囲は原判決別紙図面(七)の黄色部分であり、被控訴人が除去を求めている廃棄物等はその一部分に当たる。」に、同三行目の「一二四の三、一二五」を「一二一、一二二、一二五、一二八の1ないし6」にそれぞれ改める。

3  同六枚目裏四行目の「被告茂徳が本件山林に投棄した残土等は、」を「控訴人茂德は、廃棄物を投棄したことはなく、また、残土等を投棄した場所は、本件山林の上部の平坦地で、しかも搬入した残土等は、地固めしているので、」に改め、同七枚目裏七行目末尾の次に行を改め、次のとおり加える。

「(四) 控訴人中野建材及び控訴人中野の主張

控訴人中野建材は廃棄物を投棄しておらず、本件山林の埋立てに必要な残土に限って、進入路から一〇メートル前後入った右山林上端部の平坦地に搬入したにすぎない。しかも、これを積み上げ地固めしたから、控訴人中野建材が搬入した残土等が被控訴人土地に崩落していない。」

4  同裏一一行目末尾の次に行を改め、「本件山林に投棄され、被控訴人土地に堆積した廃棄物等は約四万立方メートルにも上り、被控訴人の所有権を侵害しており、加えて、本件山林に堆積した廃棄物等は、被控訴人土地に崩落する危険性が高く、被控訴人の所有権を侵害する虞れがある。」を、同八枚目表五行目から六行目にかけての「廃棄物等」の次に「(原判決別紙除去物目録(一)記載のもの)」をそれぞれ加え、同六行目の「右排除により」を「右排除にあわせて」に、同八行目の「本件山林の」から同一〇行目の「堆積している」までを「本件山林の所有者であるから、同所に堆積し、被控訴人土地に崩落する虞れのある」にそれぞれ改め、同裏一行目の末尾に「場所によっては現在の堆積状況自体安定を欠いているうえ、」を加え、同三行目の「原告土地との高さ」を「被控訴人土地との高低差」に、同四行目の「以上の差を生ずるため、」を「以上となるため、」にそれぞれ改め、同八行目から九行目にかけての「及び原告土地」を削る。

5  同九枚目表七行目の「本件山林のうち勝古沢二二二番の一の山林から」を「分筆前本件山林から」に、同一〇行目の「更に、」から一一行目の「(一)ないし(六)記載のとおり」までを「本件山林及び二二二番七の土地からの崩落を防止するため、本件山林に堆積した廃棄物等を原判決別紙除去物目録(二)記載の範囲で」にそれぞれ改め、同裏一〇行目末尾の次に行を改め次のとおり加え、同一一行目の「(2)」を「(3)」に改める。

「(2) 控訴人茂德は、一審相被告輪島商店に対し、土地造成工事に準ずる程度の量の土を、下方に落下しないような方法によって本件山林に投棄することを承諾したにすぎず、地固めを十分せずに廃棄物等を投棄することは了解していないから、一審相被告輪島商店が勝手にした廃棄物等の投棄の結果については責任を負うものではない。」

6  同一〇枚目表二行目の「原告土地も」から同七行目末尾までを「本件山林から被控訴人土地に落下した残土等は極めて少量にすぎず、むしろ、被控訴人土地に堆積している土砂は、そのほとんどが本件山林の隣地である訴外山口哲雄所有の山林から流出したものだからであり、また、本件山林と被控訴人土地とは山間にあるところ、山林においては一般に土砂等が落下しても取り除く必要性が低く、しかも被控訴人が求めている被控訴人土地及び本件山林の廃棄物等の撤去には、数億円という莫大な費用がかかる。他方、被控訴人土地には水源地があるものの、現在に至るまで飲料水用として利用されておらず、また、被控訴人はシアン化合物が潜在する虞れを指摘しているものの、過去に一回検出されているだけで、その後検査を重ねているものの検出されてはいないことからすれば、廃棄物等の撤去の必要性は乏しい。これらに加え、控訴人茂德は、一審相被告輪島商店や控訴人中野建材から投棄料を全く受けとっておらず、他方、その後始末のために約六〇〇〇万円を負担して本件山林の斜面のゴミ収拾や整地等の工事をしているのであるから、被控訴人のこれらの除去請求は権利濫用であり、許されない。」に改める。

7  同一一枚目裏一一行目「東洋流通が」の次に「金員の支払いを受けて」を加え、同一二枚目表六行目末尾の次に行を改め、「(3) 控訴人中野建材は、東洋流通に費用を支払って、東洋流通の現場責任者の方法や場所の指示に従って残土を搬入していたのであるから、搬入した残土が被控訴人土地に崩落したとしても、それは東洋流通が行った行為によるというべきである。そして、搬入後の残土の崩落予防措置については当然東洋流通が講ずべきものであり、控訴人中野建材は右予防措置をとるべき義務を負わない。さらに、被控訴人土地との境界線の位置についても知らず、被控訴人と控訴人茂德との間で話し合いができているものと理解して搬入していたのであるから、残土の崩落により被控訴人の権利を侵害して重大な損害を与えるとの予見可能性はなかった。」を加え、同七行目の「(3)」を「(4)」に改める。

8  同裏二行目の「ものとなった。」の次に「控訴人茂德の右投棄による損害は、特別の事情によるものであり、控訴人中野建材が予見すべきものであったとはいえないから、」を、同五行目末尾の次に「また、結果責任にごく一部しか関与していない控訴人中野建材に対しては、その関与の程度に応じた限度で責任を負担させるべきであり、結果全部についての責任を負わせるには不当である。」を、同五行目末尾の次に行を改め、「(5) 被控訴人は、本件山林に廃棄物等が昭和五八年ころから投棄されているのを当然認識していたはずであるから、早期に廃棄物の撤去と土地使用中止等の措置をとるべきであったのにもかかわらず、漫然と放置したため、控訴人茂德やその他業者の違法行為を助長し、被控訴人土地に大量に廃棄物が堆積する結果を招来したのであるから、被控訴人には重大な過失がある。したがって、過失相殺の法理により、被控訴人の除去請求は排斥されるべきである。」を、同一四枚目表七行目の「九月八日から」の次に「継続的に」をそれぞれ加える。

第三  争点に対する判断

当裁判所の判断は、次のとおり補正、付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第三項の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一七枚目裏四行目の「戊三、」の次に「検証の結果、」を、同五行目の「同中野」の次に「(ただし、控訴人茂德、一審相被告直樹、控訴人中野の各供述中、後記認定に反する部分を除く。)」をそれぞれ加え、同一〇行目の「三三二番」を「三三二番他二筆」に、同一八枚目表二行目の「残土等を搬入させるようになった。」を「産業廃棄物の焼却処分場として使用させるようになった。」に、同三行目の「本件山林」を「分筆前本件山林」に、同四行目の「埋め立てをさせていた。」から七行目の「含まれていたため、」までを「南側の県道からの進入路付近をコンクリート片を含む残土等で埋め立てをさせたほか、廃棄物処理業者にも、分筆前本件山林に廃材等を搬入させ、投棄させていた。また、昭和六〇年ころから、一審相被告直樹が、控訴人茂德から任され、業者に廃棄物等を搬入させていた。」にそれぞれ改め、同裏二行目から三行目にかけての「堆積しているのを発見し、被告茂徳に連絡し、」を「堆積し、また、地面から白煙が上がっている箇所があることを発見し、本件山林の管理者であった控訴人茂德に連絡するとともに、千葉県環境部生活環境課に廃棄物の不法投棄の対策方を依頼した。そして、」に、同五行目の「求めた。」を「求め、その後、同直樹に現地で、廃棄物等で被控訴人土地との境界杭が埋没していることを確認させ、これら廃棄物等の撤去を求めた。」にそれぞれ改め、同七行目の「約した」の次に「(なお、控訴人中野建材は、被控訴人は残土を搬入して廃棄物を覆土することを承認していた旨主張し、一審相被告直樹本人は右趣旨の供述をするが、甲三八ないし四六号証、五〇、五一号証並びに証人間庭晰及び同上野三喜夫の各供述に照らし、措信できない。)」を加え、同八行目の「投棄されていることが」を「投棄され、被控訴人土地に流入していることが」にそれぞれ改める。

2  同一九枚目表四行目の「廃棄物等の撤去の」を「廃棄物を撤去しながら盛土をして復旧する」に、同五行目の「不十分であるため、同計画について合意の成立に至らなかった。」を「不十分であり、被控訴人は、盛土の場合の安定計算書や排水計画等を提出するよう求めていたが、控訴人茂德らがこれに応じなかったため、復旧対策についての協議が整わなかった。」に、同八行目の「そこで、」から一〇行目の「締結した。」までを「控訴人茂德は、そのころ、他の業者にも千袋の土地に廃棄物等の投棄を認めていたが、一審相被告輪島商店に対しても廃材を搬入し、焼却、埋設することを認め、同年九月ころ、同人が代表者を務める東洋開発有限会社を賃貸人とし、輪島商店に対し、保証金五〇〇万円、地代一〇万円として千袋の土地を貸し渡した。」にそれぞれ改め、同裏四行目の「被告直樹は、」の次に「控訴人茂德の了解を得て、」を加える。

3  同二〇枚目表三行目の「(三) 」の次に「控訴人茂德は、本件山林に堆積した廃棄物等に覆土し、のり面を埋め立てて整地しようと考え、直樹が紹介した控訴人中野建材に埋立て用の残土等を搬入させ、東洋流通に埋立て工事をさせることにした。」を加え、同六行目から七行目にかけての「賃貸することになった」の次に「(戊三)」を加え、同七行目の「被告中野建材の運搬車は、」から同裏二行目の「搬入した。」までを「控訴人中野建材が搬入した残土は廃棄物であるコンクリート片を含むものであり、これらを東洋流通の現場責任者小笠原重則等の指示で分筆前本件山林の頂上部の平坦地に降ろし、これらを用いて東洋流通がユンボ等の重機でのり面等を整地し、また、上端部に高く盛土するなどもしたが、搬入した残土等すべてについて計画的に十分な地固めをしたものでもなく、斜面から下方に崩落することもあり、また、上端部から被控訴人土地に続く傾斜面に向けて直接投棄し、あるいは斜面の際に降ろして押し出す等して被控訴人土地方向に落下させることもあった。」に改め、同六枚目の「少なくとも」の次に「同控訴人の自認する」を、同八行目の「原告は、」の次に「この間、前記のとおり、被控訴人土地内に堆積した廃棄物等の撤去等について控訴人茂德らと協議していたが、その過程でさらに大量に残土等が搬入され、上部から大量に投棄される結果、その圧力で繁茂していた木々が押し倒される等し、上端部の平坦地や斜面上の木々の状況や斜面の勾配等が変化し、被控訴人土地内に流入した廃棄物等が増加していたため、被控訴人は、度々、投棄の中止を要請していたが聞き入れられず、」をそれぞれ加え、同九行目の「右投棄の中止」から同一〇行目末尾までを「右投棄の中止、被控訴人土地内に堆積した廃棄物等の撤去及び崩落防止措置の実施を求める旨の文書(甲三九ないし四六)を送付したが、控訴人中野建材はこれを無視して残土等を搬入し、また、控訴人茂德や一審相被告直樹は、これらを無視して、十分な計画、現場管理をすることなく業者に残土等を搬入させ、投棄を続けさせた。しかし、その後まもなく、警察に廃棄物に処理及び清掃に関する法律違反で検挙されたことから、いったんこれら廃棄物の投棄は中止された。」に、同一一行目の「原告土地」を「平成元年八月二三日分筆前の二二二番一(地積一四二〇七平方メートル)」にそれぞれ改める。

4  同二一枚目表四行目の「和解が」から五行目の「投棄させた。」までを「和解(甲九四)を成立させた。しかし、その後、本件山林ののり面を整地し、また、あわせて上端部に展望台を造ること等を計画し、平成元年一月ころから再び、業者にコンクリート片を含む残土を搬入させたほか、木屑等の家屋解体による廃棄物等をも搬入させ、木屑の焼却をさせた。また、代金を支払うことなく無断で本件山林に廃棄物等を搬入する業者もおり、これらを野積みさせたほか、被控訴人土地に続く傾斜面に向けて投棄するままにさせていた。」に、同七行目の「投棄し、」を「不法投棄したことを理由に、」に、同九行目の「本件山林に」から一一行目末尾までを「控訴人茂德は、昭和五九年ころから、残土処理業者に、本件山林へ残土のほかコンクリート片や、廃材等多数の廃棄物を搬入させ、右業者らが被控訴人土地に続く斜面に向けてこれらを投棄し、これにより被控訴人土地に堆積した廃棄物等の撤去等につき被控訴人と対策を協議している間にも、一審相被告直樹に任せて、本件山林の北側斜面に残土等を搬入させ、また、平成元年一月以降も、本件山林に廃棄物を搬入させていたものであり、一審相被告輪島商店、控訴人中野建材も、本件山林に廃棄物等を投棄していたものである。」にそれぞれ改める。

5  同裏三行目の「証拠」から同八行目の「土砂等は、」までを「前記のとおり(第二の二の2)の本件山林と被控訴人土地との位置関係、地形からすれば、進入道路から本件山林に搬入された土砂は、その量及び種類のほか、ユンボ、ブルドーザー等で時間をかけて踏み固める等、下方に落下することのないよう本件山林内での処理方法についても特段の配慮をしなければ、必然的に」に、同九行目の「昭和五九年以降、」から同二二枚目表一一行目末尾までを「本件山林に残土を搬入したが、埋め立てて整地をするためで、時間をかけて地固めしたものであり、これらが被控訴人土地に崩落したことはない旨、被控訴人土地に崩落した廃棄物は一審相被告輪島商店が投棄したものである旨主張し、右主張に沿う供述をする(乙三四、控訴人茂德本人)。確かに、控訴人茂德は、昭和六三年当時、本件山林斜面上に放置されていた廃棄物等を一部集めて処理し、また、平成元年一月ころから、本件山林の斜面を整地しようとし、残土を本件山林斜面に搬入し、ユンボで残土を降ろして埋立て作業をし、また、一部斜面に芝を植える等の措置をとったことが認められるが(甲一〇三、一〇五、一〇六、丙五)、本件山林の斜面上に堆積した廃棄物をすべて撤去したものでもなく、その後新たに廃棄物を含む残土が搬入され(甲一〇一)、また、芝も斜面の一部に植えたにすぎないことが認められる(甲九一、検証の結果)。そして、前記のとおり、一審相被告輪島商店が本件山林に廃棄物等を投棄するようになった昭和六二年四月より以前である昭和六一年当時、既に本件山林の上部から被控訴人土地にかけての斜面上の木々が上方からの崩落物により倒れ、その地表には古タイヤ、ビニール片、家屋の廃材、コンクリート片等多数の廃棄物が露出し、被控訴人土地にもこれらが堆積し、境界杭が埋没していたこと(甲一、三二、証人間庭晰)、前記認定のとおり、被控訴人がこれら流入した廃棄物等について控訴人茂德に対し撤去を求めたにもかかわらず、同人はこれを無視し、本件山林の斜面に堆積している廃棄物を表面上見えないよう覆土しようとしていたこと(甲一〇六、一〇八、一審相被告直樹)、また、控訴人茂德が平成元年以降に本件山林の斜面に残土、廃棄物等を搬入した結果、被控訴人が本件訴訟を提起した当時に比して被控訴人土地に堆積した廃棄物の量が一層増加したこと、平成五年七月七日に実施された検証当時も多数の廃棄物等が依然、露出していること等に照らせば、前記のとおり、控訴人茂德が、本件山林に投棄させた廃棄物等が被控訴人土地に崩落し、被控訴人土地に堆積したことを優に認めることができる。控訴人茂德の前記供述内容は、採用できない。」に改める。

6  同二三枚目表二行目の「被告中野建材が」から同二三枚目裏二行目までを「控訴人中野建材及び同中野は、埋立用の残土のみを搬入したのであり、廃棄物を投棄したことはなく、また、本件山林の頂上部の平坦地に残土を搬入し、しかも同所で現場責任者の指示にしたがって積み上げたり地固めしていたのであるから、控訴人中野建材が搬入した残土等が被控訴人土地に崩落してはいない旨、このことは、同控訴人が本件山林に搬入した残土であるとする戊四号証の写真の土と本件山林斜面や被控訴人土地に堆積した廃棄物とは質が違うことからも明らかであり、また、同控訴人が搬入した残土の多くは平坦部に積み上げられたまま残存し、あるいは整地に使用されて原状を留めており(戊二)、搬入量と比較すれば、その後の所在が把握できない残土はごく少量であることは明らかである旨主張し、控訴人中野本人も右趣旨に沿う供述をする。しかし、控訴人中野建材が搬入した残土は廃棄物に当たるコンクリート片等を相当量混入しているものであるほか、ゴミ等を投棄してもいるのであり、その総量は少なくとも四万三二一〇トンにも及んでいるところ(甲一九、二四ないし二九、一〇八、戊五の1ないし6、控訴人中野本人)、本件山林の上端部の平坦地に残存している残土等はすべて同控訴人が搬入したものとは認めるに足りないうえ、同控訴人が本件山林に残土等を搬入する以前の本件山林の写真とその後の写真との対比によって認められる本件山林の景観の変化(甲三四)、同控訴人所有のダンプカーが被控訴人土地に続く斜面際に停車して残土等を降ろしている事実(甲三二、九九、一〇〇。なお、控訴人中野建材は、右写真の撮影場所は本件山林ではなく、また、被写体も同控訴人所有のダンプカーではない旨主張するが、控訴人中野も本人尋問においてこれを認めているうえ、撮影場所が異なることを疑わせる証拠はない。)、一審相被告直樹が昭和六二年四月に本件山林と被控訴人土地との境界付近に設置した高さ五、六十センチメートルのコンクリート障壁が、控訴人中野建材が同月から本件山林に残土等を搬入するようになったのち、同年六月二五日ころまでには、廃棄物等の下に埋没してしまったこと(甲一、九七の2ないし4、一審相被告直樹本人)、前記のとおり一審相被告輪島商店も同時期に本件山林に廃棄物を搬入したが、輪島商店のそれに比べて控訴人中野建材の搬入量の方がはるかに多いこと、その他本件山林と被控訴人土地との位置関係に照らせば、右控訴人らの前記主張は採用できず、控訴人中野建材が搬入した残土等も本件山林の斜面に落下し、被控訴人土地に流入し、あるいは本件山林斜面に既に堆積していた廃棄物等を落下せしめたものと認めるのが相当である。」

7  同二三枚目裏四行目冒頭から同二五枚目裏九行目末尾までを次のとおり改める。

「1 前記のとおり控訴人茂德及び控訴人中野建材は、一審相被告輪島商店その他の業者とともに、本件山林に不法に廃棄物等を大量に投棄し、その結果、被控訴人土地内にこれらが崩落して堆積したものであるところ、後に再述するとおり、右廃棄物等の投棄後あるいは崩落、堆積後の所有権が右控訴人らに帰属することはその妨害除去又は予防義務を認めるための不可欠の前提ではなく、右所有権がなんぴとに帰属するにせよ、右廃棄物の被控訴人土地への崩落、堆積と投棄行為との間に相当因果関係が存する場合には、被控訴人は投棄行為を行った者に対し、被控訴人土地に堆積した廃棄物等の除去を求めることができるものというべきである。そして、前記認定の、本件山林の地形、被控訴人土地との位置関係等からすれば、本件山林に大量の廃棄物等を投棄すれば、防護柵の設置等特別の措置をとらない限りは下方のダム建設用地である被控訴人土地に崩落する蓋然性が大であったものであり、右控訴人らにおいて右崩落防止のために十分な措置をとったとは認められないから、右投棄行為と被控訴人土地への廃棄物等の崩落、堆積との間には、相当因果関係があるものというべきである。

なお、この点につき、控訴人茂德は、一審相被告輪島商店に対し、本件山林に土地造成工事に準ずる程度の土に限り、落下しない方法によって投棄することを承諾したにすぎず、地固めを十分せずに大量の廃棄物を持ち込むことは了解していないから、被控訴人土地への廃棄物等の崩落、堆積について責任はない旨主張するが、前記認定に照らし、右主張に理由がないことは明らかである。

また、控訴人中野建材は、東洋流通に費用を支払って、現場責任者の方法や場所の指示に従って残土を搬入していたから、搬入後の残土の崩落については東洋流通が責任を持つべきものであり、控訴人中野建材はなんらの責任も負わない旨、また、同控訴人は本件山林と被控訴人土地との境界線の位置を知り得なかった旨主張する。しかし、前記のように投棄行為と被控訴人土地への崩落、堆積との間に相当因果関係が認められる以上、たとえ、同控訴人が契約金を支払って搬入し、投棄したものであっても、また、境界線がどの部分であるかを知らなくても、同控訴人はその投棄行為の結果生じた第三者の土地所有権の侵害の排除につき免責されるものではない。

2 そして、証拠(甲一、七四、七六、八一ないし八三、九二、一一〇、一一八、一一九、一二〇の1、2、検証の結果、証人間庭晰、同小倉域延)によれば、本件土地及び被控訴人土地に堆積している廃棄物等は二〇万立方メートルにも及ぶところ、これら堆積している廃棄物等はコンクリート片、ビニール片、家屋の廃材、古タイヤ、鉄パイプ、木片、プラスティック、タイル、金属片等種々雑多なものを含み、これらの腐蝕も進んでいること、そして地表からは、度々、白煙が上がり、これらが地盤において化学反応を起こしているものと推測されること、また、産業廃棄物には合成化学物質が含まれ、これらが投棄され、腐蝕が進む等して土壌を汚染し、地下水にまで有害物質が混入する虞れがあり、現に、昭和六二年には千葉県環境部生活環境課の調査の結果、本件山林の斜面で高濃度のシアン化合物が検出され、さらに同年から平成元年にかけての水質検査の結果、六価クロムも検出されていることが認められるから、本件山林に投棄され、被控訴人土地内に崩落して堆積した廃棄物等は、被控訴人の同土地に対する所有権を現に侵害しており、水道用水を確保するために建設した長柄ダムの用地である被控訴人土地の汚染の危険を生じさせているというべきである。

そうすると、これらの堆積物とこれらが投棄される以前の本件山林や被控訴人土地の旧地山とはその地質等の違いから明確に区別できるものであるから(甲一一八)、被控訴人は、被控訴人土地の所有権に基づく妨害排除請求権として、被控訴人土地の所有権を侵害している。堆積した右廃棄物等(原判決別紙図面(一)の緑色部分で同別紙図面(二)ないし(五)の緑色部分に相当する廃棄物等)を不法に投棄した行為者全員に対して、その除去を求めることができるというべきである。これらの堆積物は、長期間にわたり、複数の者によってそれぞれ投棄されたものであり、投棄行為全体について控訴人茂德、同中野建材、一審相被告輪島商店等の間に主観的または客観的な共同関係が存したとはいえないものの、現状においてどの部分がいずれの者が投棄したか区別することはできず、渾然一体となっているから、これらの者相互間においてはその投棄量に応じて責任割合が問題になるにせよ、被控訴人に対する関係では、自ら投棄した量はその一部であるとの事実をもって、その責任が軽減されるものではなく(投棄量が他と比べて格段に少ない者の場合には、その責任を軽減する余地があるとしても、控訴人茂德、同中野建材のいずれもこれに当てはまらない。)、これらの堆積物を投棄した控訴人茂德、同中野建材、一審相被告輪島商店等はすべて、現に被控訴人土地の侵害をしている堆積物全体につき、共同妨害者として民法七一九条一項を準用し連帯してその全体の除去をすべき義務を負っているというべきである。なお、控訴人茂德は、本件山林の所有者として、隣接する被控訴人土地に侵害を及ぼす投棄を許容していた点においても、右除去義務を負うものといわなければならない。

控訴人中野建材は、除去すべき廃棄物等の所有権は同控訴人にはなく、同控訴人が堆積物の除去をすべき理由はない旨主張するが、所有権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求は、その所有権を侵害し、あるいは侵害するおそれのある物の所有権を有するものに限らず、現に存する侵害状態を作出した者もその排除ないし予防の義務を負うものと解すべきであるから、現に廃棄物等を堆積させて被控訴人の所有権を侵害している控訴人中野建材も、その投棄され放置された廃棄物等の所有権の帰属を論ずるまでもなく、これらを除去すべき義務を負うことは明らかである。」

8  同一〇行目の「6」を「3」に、同行の「被告茂徳、」から同二六枚目表二行目末尾までを「被控訴人が控訴人茂德所有の本件山林上に堆積した廃棄物等の除去を求めている部分について、判断する。」に、同裏五行目から六行目にかけての「認められ、右認定に反する被告茂徳の供述は信用することができない。」を「認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。控訴人茂德、同中野建材はいずれも、本件山林の堆積物が被控訴人土地に崩落する危険性はない旨主張するが、前記認定に照らし採用できない。」に、同七行目の「そして、」を「したがって、被控訴人は、被控訴人土地の所有権に基づく妨害予防請求権として、被控訴人土地に崩落するおそれのある本件山林上の堆積物の除去を求めることができるものであるところ、」にそれぞれ改める。

9  同九行目の「前掲各証拠」から同二七枚目表二行目末尾までを次のとおり、同三行目の「(二) これに対して、」を「(四)」にそれぞれ改める。

「 土木工学上、標準のり面勾配(安定勾配)とされる水平距離二メートルに対し高さ一メートルの割合による勾配を超える部分の廃棄物等(すなわち、原判決別紙図面(二)ないし(六)の各黄色部分に相当する廃棄物等。甲一二八の1ないし6))について除去させるのが相当と認められる。

(二) これに対して、控訴人茂德は、同所に堆積した廃棄物等は被控訴人土地内にあるダムに直接影響を与えてはおらず、仮に本件山林の堆積物が崩落しても、被控訴人土地内の施設を損壊する虞れはない旨主張し、また、同控訴人及び同中野建材は、現状においては廃棄物等が堆積していてもその法面は安定しており、崩落する危険性は少なく、有害物質が今後発見される虞れも少ないから、莫大な費用をかけて除去させる必要性はなく、同控訴人らにこのような負担を強いる被控訴人の除去請求は権利濫用である旨主張する。

しかし、被控訴人土地及び本件山林斜面には、前記のとおりコンクリート片、家屋の廃材、古タイヤ、鉄パイプ、木片、プラスティック片、タイル等種々雑多の廃棄物が堆積しているところ、本件山林内の廃棄物等の堆積物の調査の結果、高濃度シアン化合物が検出され、水質検査の結果、六価クロムが検出されたことは前記認定のとおりであり、これらの堆積物に有害物質が含まれ、または腐敗する等して、今後有害物質を生み出し、地表から地下水に流れて、水道用水等を供給する目的のダムの敷地である被控訴人土地を汚染する可能性は否定できないから、これらの危険性を除去するために堆積物の除去の必要性は高いものと認められる。

控訴人らは、シアン化合物が検出されたのは昭和六二年であり、その後何度も検査しながら、一回もその後に検出されたことはなく、また、これを検出した廃棄物は撤去されているから、本件山林ないし被控訴人土地に堆積している廃棄物を現状のままにしておいても危険はない旨主張する。確かに、千葉県環境部産業廃棄物課において本件山林付近に昭和六二年四月から同年一二月にかけて集中的に立入検査を行っていること、昭和六三年三月、控訴人茂德がシアン化合物検出場所付近の廃棄物の撤去作業をさせたこと、右以降はシアン化合物等の有害物質は検出されてはいないことが認められるが(乙一、戊四、一四、一審相被告直樹本人)、右有害物質の原因となる廃棄物等が限定されているものでもなく、廃棄物全体を撤去したものでもない以上、その後の検査でこれら有害物質が検出されていないからといって、なんらの処理をもされずに放置された多量で種々雑多な廃棄物等から有害物質が今後出ないと断定できないというべきであり、これらを除去する必要性はないとする前記主張は理由がない。

また、前記認定のとおり、本件山林には亀裂が生じており、斜面上方の堆積物が下方に崩落したことが認められるうえ、本件山林斜面が安定勾配をはるかに超える急勾配であること等からすれば、本件山林斜面が安定し、被控訴人土地に堆積物が崩落する虞れはないとする前記主張も理由がない。

(三) また、控訴人中野建材は、被控訴人は本件山林に廃棄物が投棄されているのを早期に認識していたはずであるのに、これを放置し、除去を求める等の断固たる措置をとらずにいたため、被控訴人土地に大量の廃棄物等が堆積する結果を招来した重大な過失があるとし、被控訴人の本件除去請求は許されない旨主張する。しかし、前記認定のとおり、被控訴人は、昭和六一年五月の時点で、本件山林から被控訴人土地に廃棄物等が流入していることを発見し、その後、控訴人茂德や一審相被告直樹に投棄の中止を求めるとともに、これらの除去、復旧工事計画を検討させていたにもかかわらず、その交渉過程において、さらに控訴人茂德らがこれらの除去を行わないばかりか、右中止要請を無視して本件山林に残土や廃棄物等を搬入していたものであり、被控訴人は再三、控訴人茂德に投棄中止を要請し、控訴人中野建材に対しても同様に投棄の中止要請をしていたのであるから、被控訴人が漫然と本件山林への廃棄物投棄行為を放置していたとする控訴人中野建材の前記主張は、理由がない。」

10  同裏七行目の「しかも、」から同一〇行目末尾までを「しかし、仮に右のように当初の擁壁設置請求から廃棄物等の除去請求に請求が変更された結果、これを履行するのに要する費用が増大したとしても、前記のように各業者の投棄行為により投棄された廃棄物等の分布状況を特定することができない(訴え提起当時の廃棄物の具体的な堆積状況も証拠上明らかでない。)以上、各行為者は全部の廃棄物等の除去につき不可分的な責任を負うものというべきであるから、被控訴人土地及び本件山林に堆積している廃棄物等の除去をするには五億円余の費用がかかると予想されること(乙二八)を考慮に入れても、なお、被控訴人の本件除去請求が権利濫用に当たるとはいえず、他にこれを認めるべき事情は見当たらない。」に改め、同二八枚目表三行目の「かかわらず」の次に「(控訴人中野建材及び同中野は、本件山林と被控訴人土地との境界の位置を知らなかったと主張するが、下方にダム用地が存在し、それに向かって急斜面が続いている本件山林付近の地形を一見すれば、投棄がダム用地に被害を及ぼすおそれがあることを認識できたはずである。)」を加え、同裏五行目末尾に「また、控訴人中野も、控訴人中野建材の代表取締役として本件廃棄物等投棄行為に関与した者であるから(同人の供述)、同様に共同不法行為者としての責任を負うものである。」を加え、同二九枚目表五行目の「一〇一、」を削り、同三一枚目表七行目の「有害物質が」から同九行目の「明らかであること」までを「その中に有害物質が含まれている可能性を否定できないこと」に改める。

第四  結論

以上によれば、被控訴人の本訴請求はいずれも理由あり、認容されるべきである。

よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。(なお、原判決の第二物件目録及び添付図面に明白な誤謬が存するので、主文のとおり更正する。)(裁判長裁判官加茂紀久男 裁判官鬼頭季郎 裁判官三村晶子)

別紙添付図面更正書

1 原判決添付図面(一)の「K19」を頂点とする三角形部分(K19、K18を結び、更に下に伸びる線を一辺とし、その右側に位置するもの)の黄色を緑色に改める。

2 同図面(五)のNo.6の横断図中、「境界」と表示された線の右側の小さい三角形(▽100.60と表示された箇所を頂点とするもの)に緑斜線を入れる。

3 同図面(七)の方位の表示を同図面(一)の方位の表示のとおり改める。

別紙第二物件目録(本件山林)

千葉県長生郡長柄町六地蔵字勝古沢二二二番一の山林 一一七八〇平方メートル及び同所二二二番八の山林一三二二平方メートル

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